日曜日の午後、外で遊んでいた小学2年生の長女が食事に戻るなり「選挙行かなきゃ、選挙!」と声をあげた。
選挙は長女の通う小学校の体育館を利用して行われていて、近所の友達が朝一番で父親と投票してきたらしかった。私は行かないつもりだったが、昼食後長女に手を引かれて、渋々選挙会場へ向かった。
私は選挙が心底嫌いで、今まで一度も投票したことがなかった。理由を尋ねられても、その都度「よく分からないから」「興味ないし」と取り合わなかった。今日が初めての選挙?長女と歩きながら、選挙や投票について、改めて色々考えるハメになった。
…政治も各政党の違いも分からない、立候補者も選挙の制度もよく知らない、投票に責任が持てない、知らない人や政党を支持するということの不快、休日を使うことの不快、勉強や調べものが面倒くさい、国民が選ぶという体裁のうそ臭さ…様々な消極思考が浮かんだ。取ってつけたようなヨソヨソしさ。
小中学校や高校で生徒会長とか委員長とか決める時にも、投票は行われた。私はやっぱり嫌いだったし、出来るだけ避けていた。実際すっぽかしたこともあったと思う。
なぜなら単純に、友人関係が難しくなるし、負けた方が気の毒だからだ。
長女の小学校でもあるのだろうか、生徒会長選挙戦。私の記憶では、先生達もやけに厳粛な面持ちで、体育館に投票箱があって、列を組んで順番に、小箱の中に票を落とした。立候補した候補者達は、全校集会で演説していたと思う。みんな、自分のクラスの仲良し君に投票するわけだけれども、まれにクラスの生徒数の半分しか得票できなかったやつがいたりして、号泣しているのをみんなでニヤニヤ見物していた記憶もある。少なくとも、明るく楽しい思い出ではない。
ただし国政選挙と比べると、授業の一環かどうか知らないけれど、半強制的に参加させる学校内選挙の方が性質が悪い。立候補にしても、裏で先生が任意の優等生に入れ知恵していたし。そんな茶番でさえ、投票する側は、誰かを選ばなければならない。投票の後、誰に投票したか聞かれるのが恐かった。告白の勇気は無かった。
例えば私は、けんちゃんとも橋本さんとも市川君とも仲良しでいたいのに、誰か一人を選ばなければならなかった!
誰か一人を選ばなければならなかった…
幼少の頃、父か母かいずれかを選べと、本人達から問い詰められたことが何度かあった。
「おい!ばばあと実家へいくか!え?」
「こんな所にいるとろくな目にあわんよ!」
「てめえは黙ってろ!おい、自分で決めろ!」
「言いなさい!どっちがいいの!」
もちろん、ギャア泣きする他なかった。間違っても、どっちがいいなどと口に出来ない。小さい子供にとって、親に好きも嫌いもない、優劣もない。どちらからも同じようにかまって欲しいのである。
今日の選挙で投票した人は、尋ねたら教えてくれるだろうか?「誰を選んだ?」
「どうしたの!」長女にグイと手を引かれて、私は立ち止まっていたことに気がき、しばらく長女とにらめっこになった。「思い出したぞ!駅前のアイス屋でさ、半額セール今日までだ!トリプル買ってやる、選挙とアイスどっちがいい?」
長女は、飛び上がってバンザイした。「アイス!アイス!」
もちろん半額は作り話だが、私達はくるりと向きを変え、バス停まで駆け足をした。ヨーイドン!
…
◆『文章王の掌編小説ゼミ』 4月度
完結した1400字以内の作品を投稿。
元ネタ⇒選択の理不尽
Posted by chitoku at 2008年04月26日 03:19 | トラックバック