二十数年前の話である。高校に入学して半年、一通りの事を経験して、緊張がすっかりなくなる頃だった。
その日は朝から雨で、俺たちは「うらみせ」でのダベリをパスして教室後方に集まり、各々雑誌のページを繰っていた。見るのはたいていグラビア系だ。見て見ぬフリの女子の視線を感じながら、エロ雑誌を広げるのは粋だ。
午後の始業チャイムを合図に、日本史Iの副担任が入室した。小柄で脂ぎった頭頂禿のくせに、勢いがあって声がデカい進路指導主任。出来るだけ絡みたくないその副担任が、いきなりエンジン全開で声を上げた。「おい!ポルノだろう、出せ!」
慌てて俺たちは、それぞれ腹や背に雑誌を隠して、自分の席に散った。副担任はオーバーアクションで大声を続けた。
「こおんなデッカイ尻の写真が見えたぞ、誰だ!ポルノ見てたヤツ立て!」
デッカイ尻は、たぶん俺の「GORO」だ。しかし、相手がまずい。俺たちは、とりあえず下を向いて、副担任の勢いに耐えた。
「高校生になったら、ポルノ見てもいいのか?え。パーマして、茶色くして、短ランだのボンタンだのカッコばかりつけやがって、仕舞いにゃポルノか?え!」
副担任は、鬼の首を取ったように調子に乗ってまくし立てた。それでも俺は、腹に隠した「GORO」を出せずにいた。
皆黙って下を向いて憤りを忍んでいると、副担任は、今から男子一人づつ臨時持ち物検査を行うと言い出した。 教室は、一瞬ざわついてから、急に静まり返った。
副担任は、獲物をあぶり出すように、右手一番前の席に近づいた。俺たちとは関わりの無い生徒まで持ち物検査の憂き目に会う、最悪の瞬間。
そのとき、一冊の「写楽」が教室中央で高々と掲げられた。目立たない、朴訥野郎の×造だった!
「よおし!」副担任は、必要以上に肩を怒らせて×造に詰め寄り、「写楽」を手にした。「うお!裸ばっかりだ、没収だ没収!」
「ポルノじゃないですけど。写真雑誌ですけど。」×造は毅然と言った。俺は、想像したことのない×造の勇姿に、全身が紅潮するのを感じていた。
副担任の顔色が変わった。「偉くなったなあ、おい!持込み禁止だよなあ、どこで買った?誰が売った?え、これがポルノじゃなかったら何だ?ご両親に聞いてやろうか。」
×造も顔色が変わった。俺は、咄嗟に「GORO」を掲げて、机に打ち付けた。俺は、×造の男気に乗った。副担任を睨んでやった。
バシ!バシ! バシ!
すると次々に、雑誌を打ち付ける音がした。「ボム!」が、「スコラ」が、「平凡パンチ」や「アクションカメラ」も、仲間達によって次々と放り出された。
副担任は、苦虫噛み潰したような顔で俺たちを一瞥すると、×造に「写楽」をつき返し、重々しく教壇に戻った。「職員会議だ。お前達の処分は…」
言い終わらないうちに、×造は歩み出て「写楽」を教壇の机に叩きつけた。
「何だその態度は!」背の低い副担任は、×造を見上げて凄んだ。
「これはポルノじゃない!」×造は、正々堂々と反論した。
俺たちも、×造に倣って歩み出た。副担任と×造が睨み合う教壇の机に、次々エロ雑誌が積まれ、何か言いたげな副担任を遮るように、俺たちは叫んだ。
退場! 退場! 退場! 退場! 退場!
副担任は、怒り心頭の形相ながらも、エロ雑誌を抱えて教室を去った。シュプレヒコールは、×造の賞賛にかわった。
チョメゾー! チョメゾー! チョメゾー! チョメゾー! チョメゾー!
…
◆2007年度【 第6回 3D文章ゼミ 課題:ポルノ 】
課題の内容に沿って、本当(実際の体験や伝聞)と嘘(想像したこと考えたことなど)をミックスして、1400字以内の文章にまとめてください。