「あとで一言頼む」披露宴会場に着くなり×造は、俺に無茶を言って新郎控え室に消えた。
「聞いてねえ!」が断るわけにもいかない、俺はすぐ受付を済ませ、早々と白い円卓に陣取った。
…何で俺が?何を言えば?えー新郎は、小学校時代の悪友で、お金がなくて空き瓶集めて…あー駄目だこりゃ。
俺は観念して、席次表を開いた。×造の兄弟達が4卓も占めていた!あれ?俺の知る×造は一人っ子の母子家庭、でも兄弟達もお父さんも、皆×造そっくりだ。母子家庭、ワケありの母子家庭…俺は、今更気付いた×造の数奇な少年時代を想像した。
乾杯!
×造の勤務先の老人が、喉を絞って叫んだ。俺の卓は、お互い初対面、中学校や職場の友人、計6人。他の卓は職場上司や親戚、友人6人は少ないが、小さい式場で半分は兄弟だからそんなものか。
***
小学生の時、同じ団地に住んでおりまして…よし、まさか逆タマとは…駄目だ、最初に会ったのは…覚えてないし。えー彼はボロを纏えど心は錦…いや、彼は貧乏なのに気前が良く…違う、彼はいつも同じ服を着て…くそ!
俺は、「一言」が思いつかないことよりも、×造=貧乏と見做している自分のイヤラシさに腹が立った。
金持ちを前にすると「俺は貧乏だから」と卑屈になる自分が嫌だったし、逆に俺に対して「俺んち貧乏だから」などと言うやつも大嫌いだ。「買えねえよ、俺んち貧乏だから」と言うヤツに限って、誰よりも早く最新ゲーム機を入手したりする。「あーダメだ全然勉強してねえ、今日のテスト最悪!」と言うヤツが、決まって俺よりいい点取るのに似ている。何かの口論でも、「ウチは貧乏なんだよ!悪かったな!」と自分の家族をも道連れに卑下するヤツは最低だ。「俺んちだって貧乏だ」と返すヤツは馬鹿だ。
「では!お願いします。専門学校時代の新郎は何の勉強を?」
司会者の声と同時に、対面の男が立ち上がった。「えー、専門学校時代の新郎は…」
知らない間に新婦のお色直しも終わっていた。今は新郎側の余興で、司会者が×造の少ない友人を指名して「一言」言わせていた。ちょっと拍子抜けだが、こういう「一言」なら俺にも出来そうだ。
そういえば×造は、自分のことを貧乏だなんて一度も言ったことがなかったと思う。立派だ、それに比べて俺は最低だ。いや、俺だって口に出したことはない、そもそも「貧乏」という言葉が良くない、差別用語じゃなかったか?立派な挙式じゃないか、×造は貧乏じゃない!俺も貧乏じゃない!俺は程よく酔ってきた。
「…ということで、三つの袋を大切に!」
中学の友人?の「一言」、場内は大喝采だったが、俺は苛立った。「一言」じゃねえし、何で同世代が「三つの袋」を語る?そう言えば、クラスで給食費の袋がなくなると、いつも真っ先に×造が疑われたっけ。でも絶対×造じゃない、誰だったんだ犯人…
その時、俺の名前が呼ばれて司会者の方を見た。すぐに、俺の脇からマイクが出てきた。
「では!お願いします。小学校時代の新郎を一言で言うと!」ああ、スポットライトめ。
「えーと。小学校時代は、いっつも貧…」
あー!やっぱり失敗した、無理!降参!俺は、周囲の沈黙と自身の爆発しそうな鼓動とで壊れちゃいました。
「いっつも…いっつもビンビーン!ハッキリ言って巨根だったっす。クフフ。キョッコンおめでとー!なんちて…」
…
◆2007年度【 第4回 3D文章ゼミ 課題:貧乏 】
課題の内容に沿って、本当(実際の体験や伝聞)と嘘(想像したこと考えたことなど)をミックスして、1400字以内の文章にまとめてください。