2007年01月11日

わるいなかまの名前(初稿)

6年生になると、×造は忽然と姿を消した。
新学期最初の日の集団登校でいなかったから、×造と同じ組の連中に聞いたけど「知らん」と冷たかった。

×造の家は母子家庭で、組は違ったけど団地の同じ棟にいて、行事のある日や土曜日は、集団登下校で一緒だった。
でも、結局一度も同じクラスにならなかったし、4年生になった頃からから×造は、急に雰囲気が変わってしまった。
目つきが暗くなって、服装はだらしなさを増し、顔や腕に小さい傷が増えて、肌が黒くなった。
うわさでは、中学生に混じって夜遅くまでゲーセンに出入りしていたらしく、金使いも荒かった、とか。
健全な連中は×造を敬遠し始めたし、俺もいつの間にか、殆ど関わりがなくなってしまっていた。

それからしばらくして、健全と目されていた俺たちも、ゲーセンの大流行に感染した。
学校が終わると、一番近い友人宅に荷物を置いて、小銭の有無に関わらず、俺達はゲーセンに走った。
ところが、どこのゲーセンでも先客で満席、ゲームなど出来やしない。たいてい中学生以上の連中がやっていて、俺達はそれを見るだけ。
たまに×造のような小金持ちが遊んでいれば待機して、小便の時などに交代させてもらった訳だ。

もちろん俺達も、それで満足する馬鹿じゃなかった。
夏場はカブトやクワガタを取って、街のペットショップで売り捌き、虫が取れなきゃ自宅や近所の1リットル瓶を片っ端から酒屋に持ち込んで換金した。
売り物が無ければ、近所中の自動販売機を練り歩き、祈りを捧げるように自販機の下を物色した。
そのうち、常軌を逸する輩も出始めた。
酒屋の裏手から、ケースごとコーラの瓶や一升瓶を持ち出して、別の酒屋で換金するやつなどマシな方で、車上荒らしや恐喝に手を染めるやつが、何人か捕まった。
そんな中での小学5年生の春休み、再び俺は×造と接触したのだった。

近所で利用者の多い、大型スーパーの屋上にも、小さなゲームコーナーはあった。
そこでの観戦の前か後で、俺が出口付近の自販機など物色していると、背後に×造が立っていた。
「なーにやってるだかっ」と言って、床にしゃがんでいた俺の手を引いた×造は、ネックレスなどして、少し年長に見えた。けれども、立つと俺のほうが大きく、やっぱり調子づいた悪ガキにしか見えなかった。
「いいこん教えてやるから来おし」(いい事教えてやるから来なよ)
戸惑いながらも俺は、×造に従って、スーパーの駐車場周辺で「使えるレシート」を探し回った。
×造はしたり顔でゴミ箱を漁り、俺は自転車置き場をうろついた。
<T1デンチ2パック * 10 … … 合計\3,700>
と記載のあるレシートを見つけて、×造に見せると「オオ、コレ!」と俺から奪い取り、俺には「待ってて」と言い捨て、ちょこまかと店内に消えた。

そうは行くか!俺は2回へ上がっていく×造の後を追った。
×造は2階へ上がり、エスカレーターの向こう側の電気関連の売り場から、単一乾電池2本パックを両手で抱えていた。レジは俺の後方にあったけど、×造は電池を抱えたまま、エスカレーターから1階へ降りていった。俺も、わざわざ階段を使って×造を追った。

1階は食品売り場で、夕方の買い物客で混んでいた。
×造は、ひしめく主婦達の間を縫って、一番手前のレジに辿り着いた。俺は隠れて、×造の動作を覗いていた。

レジを打つ店員に×造が何か話した。
店員は驚いたような顔をして、×造が抱えている電池の山を凝視した。
レジを待つ主婦達に会釈した店員は、×造から電池を受け取った。
すかさず×造が、かのレシートを店員の鼻先に差し出した。
レジを待つ主婦が何か言った。再び店員は、主婦達に会釈したが、×造はじっと店員を見ていた。
店員は、電池を置いてレシートを手に取り何か書き込んで、ハンコ?を押し、レジを打って現金と、新しいレシートを×造に手渡した。
×造は少し笑って踵を返し、店員はもう一度主婦達に詫びていた。

颯爽と外に出た×造を追いかけて、俺が声をかけると×造は、さも面倒くさそうに俺を一瞥し、目で人気のない方を指した。
俺は、気まずい思いで、×造と少し離れながら、自転車置き場の一番奥までついて行った。
×造は、俺の手に千円札をのせた。「うそ!」俺は思わぬ収穫に仰天、×造のネックレスが神々しく感じられた。
「明日Kマートでやるから来おし」
そう言って、母親が仕事に出る時間だからと、×造は自転車で走り去った。
当日、約束したのに俺は、恐くなって家から一歩も出なかった。

それきり、ゲーセンに行っても、スーパーに行っても、×造と会うことはなかった。小学校でも、一度も見かけなかった。
×造は、あの春休み中に補導され、そのことが遠因で母親と警察の間でもトラブルが起こり、×造だけ親戚かどこか、別の県に引っ越したらしかった。

ところで、俺の記憶に×造は健在だが、その本名が全く思い出せないのである。


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村松恒平責任編集/ブログ文芸誌 『電気蚯蚓は宇宙を夢見る』参加作品として、文章学校「文章ゼミX」提出(2007.1.9)。4作目。

Posted by chitoku at 2007年01月11日 15:38 | トラックバック
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Posted by: かつき at 2007年01月11日 16:31
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