2006年04月23日

春 〜 在りし日の詩人に捧ぐパロディ

我が家のお馴染み、国営昭和記念公園。周囲に花見客のいない広々とした場所
を選んだはずなのに、昼前にはどこを向いても敷物の花見客ばかり。
3歳の娘は、周囲の人々が気になって気が散って、ほとんど食べない。特に俺
の後方、二家族合同花見の子供達が気になるらしかった。
「ねーあたちもあれやりたい」とグズるので、後方を見遣ると、女の子が4人
で縄跳びをしていた。妻と俺が交互に「縄がないでしょ」「小学生になったら
な」「ご飯食べてから」「いーれーてって言ってこいよ」と、娘にとっての意
地悪を言ったせいで、娘は「やる!やるう!」とギャア泣き、妻が「そんなん
だったらもう帰るよ!」と言えば「やだ!やだあ!」と大暴れ、弁当ひっくり
返しながら、俺が力で捻じ伏せた。フテ寝した娘を扱いかねた俺達は、広げて
しまった弁当を黙々と口に運んでいた。
縄跳び家族の反対側には、現場シートを広げた酒臭い宴席組がいて、娘以上に
騒ぎ始めた。右の方の家族は早々に引き揚げる様子、敷物をバンバンやるから、
桜の花びらが芝生カスや砂埃を伴って、こちらに降りかかった。近くには入れ
替わろうという老夫婦が、帰る家族の後始末を待っていた。食ったせいか、苛
立つほど暑く、上着を脱いで空を見上げた。風に乗った花びら、シャボン玉、
ブーメラン。休日の観光地、レジャー施設、縁日や花見の人ごみが分かってい
ながらも、家族の要求を無視できない優男。背中にゴムボールが当たった。勝
手にしろ。今度は子供が当たった。知るか。娘は暑くて眠れないらしく、覚え
たての言葉で妻に悪態をついていた。宴席組の連中と、左手のオバサマ達のお
喋りで、妻と娘の会話に対する興味は失せた。勝手な連中が、国営公園で、勝
手なことばかりやっている。いいさ、俺だって勝手なことばかりしていたから。
妻はその昔、俺の下宿先に勝手に上がりこんだ押しかけ女房だ。娘、娘は勝手
に生まれたわけじゃない。作ろうと思って作った。大学だって、先生になろう
と思って進学した。文学部国文専攻、ベタだったかな。好きこそものの上手な
れ、下手の横好き、勝手にしろ。私は古い記憶から、ある和歌を思い出した。
 ぬれまいと思うや花のいぢらしき したたる露のよひの春雨
意味という病、と言ったのは誰だっけ?和歌に意味を見い出すべからず、ただ
解釈せよ。とてもエロい、春はそもそもエロい季節なのであります。
娘がオシリを見せながら、振り向きざまに訊いた。「お歌の意味はなあに」娘
の向こうで、妻がヒクヒク泣いている。俺は身構えた。「春の歌だよ」泣いて
いる妻に、代わる代わる見知らぬ男が何か耳打ちしていた。娘は変わらぬ姿勢
で更に訊いた。「春?春はなあに」妻を取り囲む人だかりが、私の背後の人だ
かりと、オシリ丸出しの娘を真ん中に、機動隊とデモ隊のように対峙した。
「逃げろ!」言葉にならなかった。娘は繰り返した。「春?春はなあに」それ
どころじゃないが、大声で怒鳴ってやった。
「お前にもやがて春が来る、思春期だ、思春期って言う春だよ!」
娘は「わあっ」と尻もち、号泣。「ビックリさせないで!食べてるのに!」妻
に怒られる始末。近くの老夫婦が、口を開けて私を注視していた。
噫(ああ)、寝ぼけてゐた、私は寝ぼけてゐた!


◆第7回 3D文章塾(略称ゼミ)
◆課題「春」
課題の内容に沿って、本当(実際の体験や伝聞)と嘘(想像したこと考えたことなど)を半々に、1400字以内の文章にまとめてください。

Posted by chitoku at 2006年04月23日 15:15 | トラックバック
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