2006年03月04日

迫りくる矢のような八十二の瞳に向かって敬礼!

「禁止されているものを持ってきたK君はよくありません。でも、何も言わな
いで勝手にどこかへ持って行ってしまうことは、もっと良くありません」
確か、そういう意味のお説教をした後で、おばあちゃん先生は、目をつむって
顔を伏せるよう、教室のみんなに言いつけた。そのホームルームの最中、ゲー
ムウォッチ「ヘルメット」に夢中だった当時小3の私には、好都合であった。
教室では、一番前の一番右側のKが、最初から机に顔を伏せてしゃくりあげて
いた。当時最新の「オクトパス」を盗まれたと先生にちくったらしかったが、
こっちにとばっちり来たらどうするんだ、そう思って小3私は舌打ちした。
Kは小3私を相棒だと言って、家に招いたりゲームを貸してくれたりしていた
けど、造園業者のボンボンで、小3私にとっては嫌味なヤツに過ぎなかった。
「思い当たる人は、静かに顔を上げて、先生を見てください」
教室は静まり返った。小3私の「ヘルメット」は、最高得点目前であった。
「てめえか!返せ!」Kが怒鳴った。みんな驚いて、一斉に顔を上げた。顔を
伏せていたはずのKは、真っ赤な目で、Tを睨みつけていた。小3私が座って
いた、真ん中の列の二つ前にいたTに、教室の視線が集中した。
Tは、本人が知っていたかどうか知らないけど、ボンボンKに用心棒と言われ
ていた。“K造園”従業員の息子で、身体が大きく腕力が凄かったからだ。で
も口下手で、大人しくて、喧嘩とか絶対しないヤツだとみんな知っていた。
Tは狼狽して、ひたすら首を振っていたが、先生までもTを凝視したのだろう、
遂に「おれじゃねえぼー」と言って泣き伏し、Kも「どろぼぼ」と更に泣いた。
小3私は、「ヘルメット」の手を緩めなかったが、ゲームに集中しながらも、
Tを救ってやろうか考えていた。Tが泥棒でないことを知っていたから。
……3時間目が終わったあと、例のごとくKのところに集まってゲームウォッ
チネタで盛り上がっていた時、詳細定かでないが小3私はそのオクトパスを手
にすることが出来なくて、Kに対して腹を立てたのだった。
みんな着替えて4時間目の体育のため体育館に移動する時、小3私は赤白帽を
忘れて教室に取りに戻った。チャンス!小3私はKのランドセルをひっくり返
し、まだ誰も持ってなかったオクトパスを手に取った。特に感慨は無かったが、
そのままランドセルに戻すのも癪で、体育館に行く途中、わざわざ下駄箱の、
Kのアディダスの奥にオクトパスを突っ込んだ。帰るまでお預けだ、って……
「Tくん、じゃあどうして顔を上げたのっ」おばあちゃん先生は苛立っていた。
小3私は、結局ハイスコアに至らなかった「ヘルメット」に呆然としていた。
Tは、何か言おうとしたけど一旦肩を落として、もう一度勢いをつけて後方の
小3私を振り返った。ええ?
教室の視線が小3私に集中した。小3私は、慌てて「ヘルメット」を隠した。
「この件について、知ってることがあるなら言いなさいっ」
小3私は、断片的にしか先生の話を聞いていなかったし、そもそも「泥棒」は
私であったので、軽いパニック状態に陥った。泣かずに済んだのは勿怪の幸い、
ぎこちなくも起立した。「ぼうっとしてないで、何か言いなさいっ。え。」
「えっと、泥棒の棒は、相棒の棒や用心棒の棒と似てると思いますっ」敬礼!

◆第5回 3D文章塾(略称ゼミ)
◆課題「泥棒」
課題の内容に沿って、本当(実際の体験や伝聞)と嘘(想像したこと考えたことなど)を半々に、1400字以内の文章にまとめてください。

ゲームウォッチ

Posted by chitoku at 2006年03月04日 02:43 | トラックバック
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