一般に、親から子へ、上司から部下へ、あるいは年長者から年少者へ、何がし
てやれるか、最も身近で手っ取り早いのが、食わせてやることなのだろう。
学生時代の9割を費やしたワンゲルにおいても、下級生は食うことにだけは困
らなかった。部活において面倒は見るが、生活や学業、ましてや女性関係や個
人的なことなど、面倒見れるわけがないので、上級生にとって、酒と学食にお
いてだけは「食わねど高楊枝」でいることが、部活動運営上の一大事であった。
下級生の俺は、先輩を見つけては金魚のフンとなって、食い物にありつき、上
級生の俺は、ついてくる後輩にだけは決してケチらなかったのである。
俺はもともと、出された皿は付け合せまで残さない性質だったし、ワンゲルで
身に付いた「タダめし残すべからず」の掟も日常になっていたから、他人に構
わず、社会人になっても実行していた。
以前勤めた小さな会社で、中華料理を振舞ってもらった時、7人位だったから、
中華の回転テーブル?にちょうど収まって、俺はそこでも「残すまじ」と気張
って、せっせと大皿料理に箸を伸ばしていた。
皆小食なのか、ビールのせいか、卓上の大皿がなかなか綺麗にならないので、
立って各自に盛り付けてやる始末。一通り片付いたと思って、自分の小皿の溢
れそうな酢豚に向かった時、隣の新人が余計なことを言った。
「良く食べますねえ、このシューマイもどうぞ」…カチンとどこかで音がした。
「てめえが食わねえから食ってんだ!」俺は、新人の口にシューマイを捩じ込
んで、ついでに皿まで食わしてやった。ざまーみろ。
そんな俺にも、出されたものを残さざるを得ない場所がある。…実家!
「さあさ、ご飯は?お餅がいいかしら?」1時半頃からおせち、どんぶり飯と、
雑煮を無理やり詰め込んだというのに、5時から夕食となるのだ。それまで所
在無く、テレビに向かってチビチビ飲んでいる傍らで、重箱が並べられ、唐揚
とサラダの大皿が割り込まれ、お造りの小鉢が捩じ込まれる。あえて無視する
俺に、親父が食え食えと勧めるから、一応箸を付ける…「飯、出せババア!」
酔って親父が苛つき始める。俺が飲まず話さずだからだろう。「もう飯かよ」
かくして6時過ぎ頃、家族勢揃いにて食事の時間。ご飯と焼き魚が出た。ええ?
「食えねえよ!」「置いときゃいいでしょうがっ」飲んでる俺にもどんぶり飯
と焼き魚が来た。…残さないのが俺の誇り、腹を立てつつ箸も立てつつ…
「ほれご覧、食べれるに決まってるよっ」母親の余計な一言をぐっと我慢。
次いで正月名物茹で蟹登場、もちろん俺は、ビールにも蟹にも手を出さない。
「あら、味噌汁忘れた」と母、「ボケがあ、雑煮だろうがあ!」と親父、凝固
する嫁。「分かった、でも休憩」俺の発言は失敗だった。「じゃあ蟹食え蟹!」
「あらお上品なこと、じゃあお嫁さんお餅いくつ?」「じゃあ…1個で…」
俺が時間稼ぎで蟹足を弄んでいると、嫁に雑煮が運ばれた。再び凝固する嫁。
「おい!1個のはずだろうがあ!」「大丈夫よ、ねえ、3個くらい」 カチン!
「ブタじゃねぞお!」爆発した俺に対して、親父「何しに来たんだ、お前?」
母「他にしてやれる事無いでしょうがっ」…嫁は、内緒で吐いてまた食べた。
この正月光景を修羅場と言う。繰り返し帰省する俺を孝行息子と言う。
…
◆第4回 3D文章塾(略称ゼミ)
◆課題「食べ物」
課題の内容に沿って、本当のことの中に1カ所だけ嘘を入れて、1400字以内の文章にまとめてください。