×子(チョメコ)なるゴキブリ、片足の無かりき。
×子、定食屋の屋根裏の集團に屬せり。
其の集團、晝は屋根裏の、尤も涼しく暗き隅に固まりて、各々身寄せ合ひて空腹を凌ぎたり。
夜は冷えたる調理場に出でて、調理場の隅隅漁り盡くせり。
然りと雖も、×子は異なりき。
不具なる體を引きずれども、遲々として進むこと能はず、牀乃至壁に薄々として廣がりたる油の類、舐めにけり。
隨ひて×子、十分なる榮養攝取能はず。
×造(チョメゾウ)なるゴキブリの子、身籠りたれども。
ゴキブリ×造、ある日忽然と姿を失せり。
×造、『ホイホイ』の誘惑に負けしなり。
『ホイホイ』にて身動き取れぬ×造、かくあれども、生きんとする事辭さず。
×造、もがき乍も、劃期的なる策、脱皮する策ぞ思ひ附けり。
×造、最初の脱皮試みて、體長分のみ前進せり。
尚脱皮繰り返しては、體長分のみ前進し、體長分のみ前進し、氣が附けば×造の體長、もとの半分も無かりき。
然して、出口迄數ミリなる所にて、×造、眞に姿を失せり。
ゴキブリ×子、出産を前にして、獨り屋根裏出で、調理場の冷藏庫の裏に潛みつ。
カス又油の豐富なる冷藏庫の裏、出産間近なる、片足無き×子に適したらむなり。
併し乍、常に暗き、暖かき、冷藏庫の裏、×子の生活リズムと判斷力を完全に狂はせり。
ある晝下がり、×子、重き體を引きずりて、出産場所を求めんとて出でけり。
其の時身籠りし×子の體に、多量の毒霧浴びせられけり。
×子、猛然と走りき。
本能の赴く儘、全精力の盡きる迄。
然し、×子に片足の無ければ、いつまでも同じ所を廻りたるに過ぎざるべし。
先日、「文語の苑」懇親会に行ってきたのです。
生憎、仕事の都合で長居できず、会の代表幹事愛甲さんや谷田貝さんにご挨拶申し上げるのか精一杯でしたが。
ところで、今年の1月に入会して以来、何の活動も投稿も出来ずにいて、お恥ずかしいからとおもって、あの「×子」を文語文にして、前前日にあわてて投稿したのです。
規定では、「隨想・隨筆、政治・人物・歴史論、紀行文、詩文、書翰・候文の五種」というのが投稿文語文のカテゴリなので、掲載されるとは思えないのです。「文語の苑」には「指南塾」という添削コーナーがあって、最初はそちらに投稿するつもりでしたが、いざ送ろうと思って規定を見直したら「500字以内」ということになっていたのです。文語版「×子」の文字数は600字を超えていて、添削は断念。半ばヤケクソで、「とにかく送ってみました」みたいな断り書きをつけて投稿したのです。
そういうわけで、文語版「×子」の文法は甚だあやしいもので、「今年の1月に入会して以来、何の活動も投稿も出来ずにい」ることより、よっぽどお恥ずかしいのでありました。