2003年12月09日

イラ研VSラグビー部の火種

◆第十一回 文章研究会(ゼミ) 2003年11月28日(金) 課題「学園モノ」
<実際の提出原稿です。色々ご意見いただきましたが、賛否両論こそ華!と心得ております(笑)。>


鉄製のドアがいくつも並んだ、モルタルの長屋が二列、ひとつの赤い大きな屋根の下に向かい合っている。それが学園の部室棟で、挟まれたトンネル部分が以外と明るいのは、屋根に据えられた、場違いなステンドグラスの為だ。
ラグビー部の部室は、校舎側から見て一番手前にあった。学園のラグビー部には、もう何年も前から正式なコーチがいない。顧問教諭は国語科の老教諭で、公式の試合には顔を出すが、ラグビーを知らない。だから、『聖野薔薇ヶ丘学園』ラグビー部は弱かったけれども、部員達は毎日練習していたし、試合で負ければ泣いてもいた。また、ガラの悪い新入生は、たいてい応援団かラグビー部に引き抜かれていたので、新入部員数は毎年潤沢、弱くても大所帯だ。
夕方の部室前は、通り抜けできないほど、一年生がしゃがみ込んでいる。部室は2坪程度の箱部屋で、入室は2・3年生にしか許されないからだ。練習後の1年生は、周囲の他の部からも邪険にされて、傍目にも気の毒ではあった。
その春、一人の教育実習生が、ラグビー部顧問の老教諭のもとで、実習指導を受けることになった。例によって教育実習生は、実習期間中の放課後、ラグビー部の面倒を見るよう言いつけられた。
「いや、何もしなくていいから。話し相手になってあげてください。」
実習3日目に、教育実習生はラグビー部を訪れた。すっかり暗くなった夕刻、2・3年生は既に帰ってしまっていて、誰も居ない部室は、汗と煙草の匂いしか残っていなかった。
まもなく、ガチャガチャ、ガチャガチャと、部室棟のトンネルにスパイクの音が響いた。ボール籠やサンドバッグを引きずって、1年生が引き上げてきたのだ。すかさず教育実習生は声を掛けた「お疲れぇ!」、「どうも。」と返事。
汗だくの疲れきった1年生達は、黙々とボール磨きを始めた。単なる気まずさだけでなく、漠然とした圧迫を感じ、教育実習生は喋りだした。
「大変だよねえ。ウン。僕は帰宅部だったけど、ハハハ!あ、彼女とかいる?それどころじゃないか。けっこうモテるでしょ、ラグビーやってると。」
どうしようもない空回りの、一人芝居であった。
教育実習生が居心地悪そうに立っていると、「ドン」と固い物が背中に当たった。向かいの部室、イラ研の女子部員がドアを開けたのだった。
「すいませーん、邪魔なんですけどお」「イテ、ウン、ゴメン、ジャマ?」
これには、ラグビー部1年生達も反応した。「ぷぷっ、あいつバカだ」
なるほど、彼らは上手に、イラ研ドア前を避けて座り込んでいた。
「イラ研、敵に回すなよお」「生活指導がバックにいるし!」「ギャハハ!」
彼らからの野次は、教育実習生にとって、待ちに待ったチャンスであった。
「あ、だから君等の部室狭いのか。イラ研顧問の生活指導主任に睨まれて!」
「なに?イラ研広いの?」
ラグビー部1年生達の目が、一斉にイラ研の隣、今まで気にもしなかった閉め切りの扉に向けられた。部員の一人がそのドアをノックしたが何事も無く、今度は何度も蹴飛ばした。すると、再びイラ研の扉が開いて、上級生らしき男子部員がラグビー部を一瞥し、憮然と黙ったまま中に戻った。
「ハハハ、中で繋がってるから。ウン。君等の倍だね。イラ研って6人だっけ」
数秒間、部室棟は静まり返った。「カチン」とどこかで音がした。着火。
<なんだあそりゃあ!><聞いてねえ!><どおなってんだあ!><知らんかったあ!><こっち20人じゃあ!><うがああ!><ふざけやがあ!><てめえ!><おおお!ウッ、クク><冗談じゃねえぞお!><きゃいーん>
彼らの阿鼻叫喚は、屋根のステンドグラスが抜け落ちるほど響き渡った。
事態を重く見た教育実習生は、「そうだあ」とか「おりゃあ」とか叫びながら、騒ぎに紛れて走り去った。
かくして、場違いな教育実習生こと私が、イラ研VSラグビー部の火種を作ったのである。

Posted by chitoku at 2003年12月09日 03:17 | トラックバック
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