早くそれを私に、という滑らかな声、
私はその声の主を見定めようと目を凝らす。
その人は、私の妻の姿をした、別の女で、
私が腕に抱いているのは、肉の塊。
スモークチーズのような、大きな肉の塊。
特別なものではないけれど、私の大事な持ち物。
妻の姿をした女は、赤ん坊を抱えていて、
赤ん坊を近くで見て、
顔を見れば、声を立てずに笑顔になる。
肌のにおいを心地よく感じる。
赤ん坊とひとつになりたい。
そして。
妻の姿をした女は、大きな肉の塊を持ち去った。
赤ん坊になろうとしていたら、盗まれた。
大事な肉の塊、
肉には見えないけれども、大きな肉の塊。
私の体は、むくむくと膨れて、
大きなスモークチーズのようになって、
赤ん坊を押しやって拡がって、
膨らんだ自分しか見えなくなって、
たぶん、私は怒っていたのだ。
それが分かると元に戻って、
大事な赤ん坊を拾い上げた。
いつかそれを私に、という穏やかな声、
私はその声が誰であるかと辺りを見回す。
その人は、赤の他人のような私の妻で、
私が腕に抱いているのは、大事な赤ん坊。
干したての枕のように心地よい、
私が産んだ訳ではないけれど、私の赤ん坊。
他人のような私の妻は、大きな肉の塊を抱えていて、
肉の塊を近くで見て、
スモークチーズのような滑らかな質感に、
焚き火のような香ばしさに、懐かしさを感じる。
大きな肉の塊を食べたい。
そして。