2001年00月00日

食えず嫌い三番勝負

小さな店舗に入ると俺は、「テリヤキ」とコーラを注文して、落ち着きの悪いテーブルに陣取った。ブリキの灰皿を見つめながら、次の出番を待っていたのさ。一戦目は楽勝だった。

第一戦:対「やきにくライスバーガー」
・・・手強い相手だったが、俺にしてみれば所詮前座だったね。やきにくとライスを均等に食おうとすると、相手の術中に落ちる。俺は気にしなかったよ、レタスは難敵だけど、肉もライスもバラバラになりやすいからな、肉だけでもライスだけでもかまわない、勝とうと思えば勝てる相手さ。・・・

モスの「テリヤキ」は遅い。相手を苛立たせる老練なテクニック。モスは単に遅いのではなく、注文を受けてから調理する。パーツがそれぞれ馴れ合いに至らぬままなので、複数の相手と戦っている錯覚に陥る。「オマタセシマシター」と、戦いのゴング!

第二戦:対「モスのテリヤキ」
・・・さあ、スローな展開、まずは包み紙の端をつまんで、ゆっくりと、本体を持ち上げ左手に乗せ、右手は紙をちぎり始めたぞ!これは初めての試みじゃあないですか、解説さん!
新しいですねえ、前回はいきなり本体を掴み出して惨敗してますからねえ、実況さん。
なるほど。さあ、紙をちぎり終え、両手で本体を、掴んでいません、乗せているだけだ、余計な圧力を加えないようにという配慮なのでしょう、じっと見詰めて、まるで獲物を狙う鳥のように、最初の一口をどこにしようかと、がっぷりよっつの体勢だ。「ガブ」いきました、最初の一口は上のパン、慎重です、そして肉、下のパン、オーソドックスな流れ、若干慎重すぎますか解説さん。
いいと思いますよ、実況さん。ただ時間かけすぎると汁が、ねえ。
なるほど。その慎重な口の運びは、右へ左へと、少しずつ「テリヤキ」を刻んでいく、精密機械のような正確さ、いや、レタスがちぎれません!動きが止まりました、そのままの体勢で、先に口の中のものを呑み込んでいる様子、このレタスはどうなんでしょう、解説さん。
まずいですよ。全部引っこ抜くしかないんですけどね、レタスの大きさが分からんでしょう、全部動いちゃうんですよ、レタスのせいで。
なるほど。さあ、膠着状態が続いております、アゴが左右に動いています、この危険なレタスを噛み切ろうというのか、しかしながら、紙の底に溜まった汁が、徐々に徐々に、包み込んだ両の手を圧迫しているぞ、あ、離した、口からぐったりしたレタスが落ちました、切れてはいません、まだ本体に挟まっています、これはマイナスポイントですねえ、解説さん。
実況さんも経験あるでしょ、レタスが親指に乗っかってる、気持ち悪いんですよ、あれ。
なるほど。ああ、一旦左手を離して、レタスを食べかけの本体に戻しました、そして、他の部分から、またしても慎重に、上のパン、肉、下のパンと、小刻みに口へ運んでいきます、体勢持ち直しましたか?解説さん。
いや、さっき左手離した時にね、右手に力入っちゃって、肉かパンか、少しずれたと思うんですよ。気がついているのかなあ。
なるほど。さあ、「モスのテリヤキ」残すところあと半分となりました、もはや本体は全て、ちぎった紙の中であります、そして、一口分のレベルでもって、ゆっくりと本体を押し上げました、相当汁が溜まっています、あ、先程とは違う部分で、またしてもレタスです、食い入るように見つめています、果たして片一方のレタスとは、繋がっているのかいないのか!どうでしょう、解説さん。
見れば分かるってもんじゃないからねえ、実況さん。
なるほど。あ、噛みました、今レタスを噛みました、そして少し引っ張る、先程のレタスは動かない、唇も使って、吸った!吸っています、今少しづつ、レタスの全貌が明らかになろうとしている!おーっとお!先程のレタスが向きを変えたぞ、繋がっている、レタスは繋がっていました、これは行くしかないですねえ、解説さん。
相当でかいですよ、こいつは。一気にいけるかなあ。
なるほど。さあ、巨大な一枚岩のようなレタスが、じりじりと、引っ張り出されようとしております、この、一度は諦めて、手痛いマイナスポイントを食らった、千畳敷とでも呼ぶべき大きなレタスが、今、うわ、パンです、上のパンが動いています、しかも親指ほどしか残っていません、解説さん、これは一体?
ああ、やっぱりねえ、ずれてたんでしょう、途中から。あーあ。
なるほど、あーあとか言われちゃいました。よく見てみますと、上のパンがあるべき部分の紙が、ハンバーグにぺったりと貼り付いているようです、左手人差し指が、わずかにレタスを挟み、レタスの中程には小さくなった上のパンが、申し訳無さそうに、ちょこんと乗っかって、その先では、どうすることも出来ない口が、レタスを咥えて、あ、落とした、上のパンをレタスから落としました!腕と膝に汁痕を残し、今、パンが床に落ちましたあ!・・・

負けを悟った俺は、それでも落ちたパンで服を汚したことに腹をたてちまって、気を取られて片手を離した瞬間、溜まった汁が「テリヤキ」を持つ手の上にあふれ出てきて、そいつをジュルルとすすったのさ。みじめだね。残った「テリヤキ」を全部口の中に押し込んで、トイレで手を洗いながら泣いたよ。・・・こともなげに店を出て、俺は走った。コーラのげっぷで顔が歪んだ、涙じゃない、全力疾走!俺には次の戦いが待っている。
「待ってろよ、ミルフィーユ!」

Posted by chitoku at 2001年00月00日 00:00 | トラックバック
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