2008年04月26日

It is a good choice!

日曜日の午後、外で遊んでいた小学2年生の長女が食事に戻るなり「選挙行かなきゃ、選挙!」と声をあげた。
選挙は長女の通う小学校の体育館を利用して行われていて、近所の友達が朝一番で父親と投票してきたらしかった。私は行かないつもりだったが、昼食後長女に手を引かれて、渋々選挙会場へ向かった。
私は選挙が心底嫌いで、今まで一度も投票したことがなかった。理由を尋ねられても、その都度「よく分からないから」「興味ないし」と取り合わなかった。今日が初めての選挙?長女と歩きながら、選挙や投票について、改めて色々考えるハメになった。
…政治も各政党の違いも分からない、立候補者も選挙の制度もよく知らない、投票に責任が持てない、知らない人や政党を支持するということの不快、休日を使うことの不快、勉強や調べものが面倒くさい、国民が選ぶという体裁のうそ臭さ…様々な消極思考が浮かんだ。取ってつけたようなヨソヨソしさ。

小中学校や高校で生徒会長とか委員長とか決める時にも、投票は行われた。私はやっぱり嫌いだったし、出来るだけ避けていた。実際すっぽかしたこともあったと思う。
なぜなら単純に、友人関係が難しくなるし、負けた方が気の毒だからだ。
長女の小学校でもあるのだろうか、生徒会長選挙戦。私の記憶では、先生達もやけに厳粛な面持ちで、体育館に投票箱があって、列を組んで順番に、小箱の中に票を落とした。立候補した候補者達は、全校集会で演説していたと思う。みんな、自分のクラスの仲良し君に投票するわけだけれども、まれにクラスの生徒数の半分しか得票できなかったやつがいたりして、号泣しているのをみんなでニヤニヤ見物していた記憶もある。少なくとも、明るく楽しい思い出ではない。
ただし国政選挙と比べると、授業の一環かどうか知らないけれど、半強制的に参加させる学校内選挙の方が性質が悪い。立候補にしても、裏で先生が任意の優等生に入れ知恵していたし。そんな茶番でさえ、投票する側は、誰かを選ばなければならない。投票の後、誰に投票したか聞かれるのが恐かった。告白の勇気は無かった。
例えば私は、けんちゃんとも橋本さんとも市川君とも仲良しでいたいのに、誰か一人を選ばなければならなかった!

誰か一人を選ばなければならなかった…
幼少の頃、父か母かいずれかを選べと、本人達から問い詰められたことが何度かあった。
「おい!ばばあと実家へいくか!え?」
「こんな所にいるとろくな目にあわんよ!」
「てめえは黙ってろ!おい、自分で決めろ!」
「言いなさい!どっちがいいの!」
もちろん、ギャア泣きする他なかった。間違っても、どっちがいいなどと口に出来ない。小さい子供にとって、親に好きも嫌いもない、優劣もない。どちらからも同じようにかまって欲しいのである。

今日の選挙で投票した人は、尋ねたら教えてくれるだろうか?「誰を選んだ?」
「どうしたの!」長女にグイと手を引かれて、私は立ち止まっていたことに気がき、しばらく長女とにらめっこになった。「思い出したぞ!駅前のアイス屋でさ、半額セール今日までだ!トリプル買ってやる、選挙とアイスどっちがいい?」
長女は、飛び上がってバンザイした。「アイス!アイス!」
もちろん半額は作り話だが、私達はくるりと向きを変え、バス停まで駆け足をした。ヨーイドン!

『文章王の掌編小説ゼミ』 4月度
完結した1400字以内の作品を投稿。

続きを読む "It is a good choice!"

2008年04月07日

みみのじっけん

ある8月の午後でした。プールから帰ってきたご子息は、頭を真横に傾けて、片足でぴょんぴょん飛び跳ねながら、私の前を知らん顔で通り過ぎたのです。いつもは私に多少でも声を掛けて、あるいは抱擁してから玄関に向かうご子息でしたから、私は嫌な予感がして気を揉んでいたのです。
夕食前の散歩の時間になると、ご子息がいつものように出てきて、私の頭をなで、しゃがんで抱擁するものですから、私はすっかり安堵して、力いっぱい尻尾を振っていたのです。
「実験するよ」突然ご子息はそう言って、グレープジュースの入ったペットボトルのふたを開け、片腕で私を抱擁したままペットボトルの飲み口を私の耳にあてがったのです。はっとして、私は激しく首を振り、ご子息の顔を見つめましたが、ご子息は私の首輪をきっちり握ったまま、私の耳と耳の穴を凝視して「実験、実験」とつぶやいているのです。
常日頃お世話になっているご主人のご子息であり、私を親友と呼んでくれるご子息のご希望、出来れば叶えてあげたいと思うのですけれども、耳にジュースなど聞いたことがありません。とにかく私はイヤイヤを続けるしかなかったし、ご子息は執拗に私の耳の穴を狙ってペットボトルを傾け、また狙っては傾け、気がつくと私もご子息もジュースでべたべたになり、グレープジュースの甘ったるい臭いで私の鼻は麻痺しかかっておりました。
「ああ、もう!×造!」ご子息は、苛立ちが極みに達してか、仁王立ちとなり私を見下ろしながら、ペットボトルを咥えてジュースを口に含ませました。私は、ご子息の怒りを理不尽に思いましたが、このような状態では体が勝手に反応してしまいます。私は何故か、伏せの姿勢で、ご子息の次の行動を、半ば予想できてはいたのですが、じっと見守るように待ちました。
するとご子息は、膝を着いて私に覆いかぶさってきたのです。もちろん、いつもの抱擁と違って、口に含ませたジュースを私の耳の穴に注ぎ込む為の押さえ込みだったのです。
「実験」のなんと恐ろしいことでしょう、こうなると私どもは手も足も出ないのです。ましてや私のような老犬がご主人のご子息を噛むなどということは決してないのです。私の不思議な本能は、一切の抵抗をやめたのです。ついにご子息は、私の耳の穴に口をつけ、ちゅるると私の中に甘ったるいジュースを注ぎこんだのでした。
…私の耳は、温かいもので満たされました。耳の穴に液体が流れるのを感じました。想像したほど、痛いことや恐いことではなかったと思いました。ご子息が私の耳から離れると、耳からジュースが首をつたって流れました。
「実験」をやりおおせたご子息は、私から少し離れてしゃがみこみ、私の所作を観察しているようでした。
ああ!次の瞬間、殆ど同時に、私とご子息は、私の股間の熱い猛りに気がついたのでありました。
ご子息は、目をまん丸に開いて、私の肉茎を注視しておりました。私は、恥じて丸くなるべきだったかもしれませんが、実はとても興奮していたのでした。去勢されてから数年、完全に忘れてしまっていた、私がオスであったという事実!
それにしても、何故こんなときに堅くなったのか、去勢された老犬には知るすべもないのです。恐らくそれは、私の股間に見入っているご子息の、次なる「実験」のネタ…。

◆2007年度【 第9回 3D文章ゼミ  課題:耳】
課題の内容に沿って、本当(実際の体験や伝聞)と嘘(想像したこと考えたことなど)をミックスして、1400字以内の文章にまとめてください。

2008年03月10日

目と空のあいだ

30年来の友人Kが、眼鏡をコンタクトレンズに変えたと聞いた。
チョメゾーは見えるのだろうか。
数年前から眼鏡に頼っている俺は、コンタクトレンズには抵抗があった。理由は色々あるけれども、チョメゾーがきちんと見えるかどうかということこそ、コンタクト敬遠の最大の理由であった。
最初にチョメゾーを見たのは、その友人Kと、体育館入口の広い階段で、午後の白い月を見ていた時だ。ちょうど「女子の秘密集会」が行われていたから、小学校5,6年の頃だろう。
「なんだろ?見える?ごにょごにょしてるやつ」
急にKは、やや緊張した様子で俺に訊いた。Kの顔は空を見上げていたが、月ではなくて空中を見ているようで、ウロウロと目玉が泳いでいた。
「あ、ホラ、あ、こっち」と、友人は夢中で何かを見ていた。俺も見たくて、Kが見ているあたりを見てみるのだけれども、なんだかさっぱり分からない。
諦めて月や空中を眺めていたら、俺の目にも「ごにょごにょしてるやつ」が映った。
「来た!見えた、俺にも!」
それは、目と空の中間に、ゆらゆらと輝いていた。目で追うと逃げてしまう。追うのをやめると戻ってくる。無視していると、すーっと動いて見えなくなってしまう。ほとんどのそれは、ぐちゃぐちゃにねじ曲げた針金のように形らしい形が無かった。また、色らしい色も無く、ぼやけているのか半透明なのか、光を反射しているようだったし、暗いところでは見えなかった。
翌日から俺と友人Kは、早速「それ」の伝道師となって、クラスの連中に教えて回った。俺は「それ」を説明するのに相当苦労したけれども、Kは「それ」を「チョメゾー」と名づけて得意気に語っていた。その呼び名には、特に根拠はなかったらしいが、「チョメゾー」は難なく皆に定着してしまった。
そうやって、皆でチョメゾーの話をするうちに、チョメゾーについて色々なことが解ってきた。誰にでも見えるわけではない、上を向かないと見えない、眼鏡を外さないと見えない、外よりも室内の方が頻出する、等。また、俺たちが見ているチョメゾーは、皆それぞれ違うらしい事も解ってきて、新しいジャンケン神様としてチョメゾーが利用されもした。上下に動いたらチョキ、左右に動いたらパー、動きがなければグー。
やがてチョメゾーは、見事に忘れられてしまったようであったが、俺の日常には見事に溶け込んでいた。教室でも自宅でも、退屈なときは、たいていチョメゾーを見ていたし、風邪をひいて寝込んでいるときなどは、丸一日チョメゾーと戯れるのが常であったから。そういえば、大学受験のときも選択問題で困ったときにはチョメゾーを頼ったのである。その頃にはそれが、眼球に付着した塵・ホコリの類に過ぎないと解っていたけれども。
とにかく俺は、30年来の友人Kに電話を掛けた。Kが眼鏡からコンタクトに替えるのを確認し、「チョメゾーが見れないじゃないか」と、チョメゾーの名付け親Kに難色を示した。するとKは動じることなく、裸眼でも見えないのだと、侘びを交えて返答した。俺は何も言えなかったし、詰ったことを後悔した。
とはいえ俺は、「チョメゾー」について普通に会話ができたことに、心底安堵したのであった。

◆2007年度【 第8回 3D文章ゼミ  課題:眼鏡 】
課題の内容に沿って、本当(実際の体験や伝聞)と嘘(想像したこと考えたことなど)をミックスして、1400字以内の文章にまとめてください。

2008年02月01日

サーモンマリネの味(改行あり)

小学校でもらってきたというミニトマトの苗は、小さな植木鉢に移され、GW前頃から玄関脇の日当たりの良い場所に置かれた。雨が当たらない場所でもあり、梅雨どきの植木鉢には、頻繁にダンゴムシが出入りした。
やがて何本かの苗は萎れてしまったが、最後に残った一本は貧弱ながらもいくつかの実をつけ、7月過ぎには最初の一個が赤くなった。出入りしていた何匹かのダンゴムシは、その小さな植木鉢にすっかり定着していた。

その日は、記録的猛暑の晴天であった。
1学期終業式を終え、帽子の下に大汗かいて帰宅した巨漢姉妹は、玄関脇の小さな植木鉢の、いくつかの完熟ミニトマトに気がついた。
「すごーい」「食べられるかな」一瞥すると姉妹は、汗を滴らせながら急いで家に入った。「アイス、アイス!」「氷、氷!」
ランドセルを放り投げた巨漢姉妹は、氷菓子を頬張りながらミニトマトの件を母親に報告した。
「ふうん、夕食に使おうか。あとで入れといて!」巨漢姉妹の母親は、クーラーの下で洗濯物をたたみながら返答した。
いくつかの氷菓子を丸のみしたのち、巨漢姉妹の妹は、小さな植木鉢を片手で掴み上げ、颯爽と家の中に戻った。そのとき、植木鉢の底に張り付いていた何匹かのダンゴムシは、植木鉢もろともダイニングキッチンまで運ばれてしまった。

小さな植木鉢は、キッチンからダイニングを臨むハイカウンターに、新聞紙を敷いて置かれた。やがて母親は買い物に出掛け、巨漢姉妹はテレビを見て午後を過ごした。クーラーの設定は、姉によって22度まで下げられ、小さな植木鉢に潜んでいた数匹のダンゴムシは、最悪の環境に愕然として丸くなる他なかった。「寒い!」
夕方、帰宅した母親が夕食の準備を始めた。沸騰するやかん、蒸気を立てる炊飯器、保温される鍋や炊事の熱気。ダンゴムシたちは、キッチンの暖気に気がついた。やがて恐る恐る移動を始めた数匹のダンゴムシは、植木鉢からキッチンの方向へ、難渋しつつも進んでいった。そして、カウンターからキッチン側に張り出していた、四つ折新聞紙の山折り部分から、ぽろりぽろりと一匹残らず滑り落ちてしまった。

巨漢姉妹の母親は、冷蔵庫からサーモンマリネの材料を取り出して、大き目のプレート皿に盛り付けた。
「そろそろご飯だよ!」手を伸ばしてミニトマトをもぎながら母親が言うと、「はあい」とテレビを見ながら姉妹が応えた。
母親は、スライスしたミニトマトと瓶詰めのケーパーをサーモンマリネに添えてから、食卓の準備に取り掛かった。「お菓子やめなさい!」

ダンゴムシたちは、吸い付けられるようにサーモンマリネに落下した。感覚器官が麻痺するほどの好ましい刺激臭!ところが、あまりの冷たさに手も足も出ず、結局丸くなる他なかった。「もっと寒い!」
やがて、硬くなった数匹のダンゴムシに、ワインビネガーやオリーブオイルが染み込み始め、硬い甲殻が柔らかくなり、ひとまわり膨らんだように見えた。
冷たいマリネ液にふやけてしまったダンゴムシたちは、それでも丸めた体を固持しつづけた。もはや触角さえ動かなくなっていたけれども。

かくして、記録的猛暑となった7月某日、ミニトマトの小さな植木鉢にいた数匹のダンゴムシは、その家の巨漢姉妹に丸のみされたのであった。

◆2007年度【 第7回 3D文章ゼミ  課題:寒い! 】
課題の内容に沿って、本当(実際の体験や伝聞)と嘘(想像したこと考えたことなど)をミックスして、1400字以内の文章にまとめてください。
3D文章ゼミ 掌編小説傑作選

2008年01月10日

ヒーロー誕生

二十数年前の話である。高校に入学して半年、一通りの事を経験して、緊張がすっかりなくなる頃だった。
その日は朝から雨で、俺たちは「うらみせ」でのダベリをパスして教室後方に集まり、各々雑誌のページを繰っていた。見るのはたいていグラビア系だ。見て見ぬフリの女子の視線を感じながら、エロ雑誌を広げるのは粋だ。
午後の始業チャイムを合図に、日本史Iの副担任が入室した。小柄で脂ぎった頭頂禿のくせに、勢いがあって声がデカい進路指導主任。出来るだけ絡みたくないその副担任が、いきなりエンジン全開で声を上げた。「おい!ポルノだろう、出せ!」
慌てて俺たちは、それぞれ腹や背に雑誌を隠して、自分の席に散った。副担任はオーバーアクションで大声を続けた。
「こおんなデッカイ尻の写真が見えたぞ、誰だ!ポルノ見てたヤツ立て!」
デッカイ尻は、たぶん俺の「GORO」だ。しかし、相手がまずい。俺たちは、とりあえず下を向いて、副担任の勢いに耐えた。
「高校生になったら、ポルノ見てもいいのか?え。パーマして、茶色くして、短ランだのボンタンだのカッコばかりつけやがって、仕舞いにゃポルノか?え!」
副担任は、鬼の首を取ったように調子に乗ってまくし立てた。それでも俺は、腹に隠した「GORO」を出せずにいた。
皆黙って下を向いて憤りを忍んでいると、副担任は、今から男子一人づつ臨時持ち物検査を行うと言い出した。 教室は、一瞬ざわついてから、急に静まり返った。
副担任は、獲物をあぶり出すように、右手一番前の席に近づいた。俺たちとは関わりの無い生徒まで持ち物検査の憂き目に会う、最悪の瞬間。
そのとき、一冊の「写楽」が教室中央で高々と掲げられた。目立たない、朴訥野郎の×造だった!
「よおし!」副担任は、必要以上に肩を怒らせて×造に詰め寄り、「写楽」を手にした。「うお!裸ばっかりだ、没収だ没収!」
「ポルノじゃないですけど。写真雑誌ですけど。」×造は毅然と言った。俺は、想像したことのない×造の勇姿に、全身が紅潮するのを感じていた。
副担任の顔色が変わった。「偉くなったなあ、おい!持込み禁止だよなあ、どこで買った?誰が売った?え、これがポルノじゃなかったら何だ?ご両親に聞いてやろうか。」
×造も顔色が変わった。俺は、咄嗟に「GORO」を掲げて、机に打ち付けた。俺は、×造の男気に乗った。副担任を睨んでやった。
 バシ!バシ! バシ!
すると次々に、雑誌を打ち付ける音がした。「ボム!」が、「スコラ」が、「平凡パンチ」や「アクションカメラ」も、仲間達によって次々と放り出された。
副担任は、苦虫噛み潰したような顔で俺たちを一瞥すると、×造に「写楽」をつき返し、重々しく教壇に戻った。「職員会議だ。お前達の処分は…」
言い終わらないうちに、×造は歩み出て「写楽」を教壇の机に叩きつけた。
「何だその態度は!」背の低い副担任は、×造を見上げて凄んだ。
「これはポルノじゃない!」×造は、正々堂々と反論した。
俺たちも、×造に倣って歩み出た。副担任と×造が睨み合う教壇の机に、次々エロ雑誌が積まれ、何か言いたげな副担任を遮るように、俺たちは叫んだ。
 退場! 退場! 退場! 退場! 退場!
副担任は、怒り心頭の形相ながらも、エロ雑誌を抱えて教室を去った。シュプレヒコールは、×造の賞賛にかわった。
 チョメゾー! チョメゾー! チョメゾー! チョメゾー! チョメゾー!


◆2007年度【 第6回 3D文章ゼミ  課題:ポルノ 】
課題の内容に沿って、本当(実際の体験や伝聞)と嘘(想像したこと考えたことなど)をミックスして、1400字以内の文章にまとめてください。